ひかりとかぜのとおりみち

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見ることについて

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昨日、絵と写真について(ほんの少しだけ)書いたと思ったら、まるで何かが待ち構えていたかのように、次の文章に出会いました。


「雪は降って降っている。書斎から細い急な坂をおりて、田圃路(たんぼみち)に出る。沼の方は一帯に薄墨ではいたようになって、何時も見えている対岸が全く見えない。沼べりの枯葭(かれよし)が穂に雪を頂いて、その薄墨の背景からクッキリと浮き出している。その葭の間に、雪の積った細長い沼船が乗捨ててある。本統に絵のようだ。東洋の勝(すぐ)れた墨絵が実にこの印象を確に掴み、それを強い効果で現している事を今更に感嘆した。所謂(いわゆる)印象だけではなく、それから起って来る吾々の精神の勇躍をまで掴んでいる点に驚く。そして自分は目前のこの景色に対し、彼等の表現外に出て見る事はどうしても出来ない気がした。」


少し長くなりましたが、志賀直哉の短篇小説「雪の日−我孫子日誌−」からの引用です。
この小説は、小説というよりも或る穏やかな日常をデッサンしたかのような趣きで、しかしそれは決して悪いものではなく、質の良い日本酒を小ぶりなお猪口に注いでぐいと飲み干す、どこかそんな感じがして、読み終えてから「ああ、私小説というのはこういうものを言うのか」と、しばらく密かな感慨を抱きました。僕らの世代は、この小説が書かれた時代からはるかに後の生まれです。物心ついたときには既に、私小説は時代遅れの行き詰まった表現形式であり、物語小説こそ小説の本流であるという思潮が世の中の大半を占めていました。その上さらに、小説を始めとした文章芸術そのものの存在価値が疑われかねない時代が訪れましたから、敢えていまこのような小説に初めて触れると、朝起きて、思いがけなく降り積もった新雪を窓の外に見たときのような、懐かしい新鮮さを覚えます。
話が逸れました。
上に挙げた一節において、志賀直哉は、人が何かを見ることについてのとても大切な、本質的な中味を述べています。二つのことを述べている、と思います。
一つは「人は常に『既に見たもの』を見ている」という事実です。これはわかりやすい考え方です。既成の価値観や先入観によって物事を見、判断しているという感覚は、我々にとって親しいものです。
ただ、ここで志賀がそうした世間知的な感覚についてのみ述べているかと言うと、決してそうではないと思うのです。志賀は、我々がついそうしてしまう、言わば癖や習慣のようなことについて言っているのではなく、どうあがいてみたところで、人間として生まれてきた以上、結局はそうならざるを得ないという、原理的で諦念的な世界観について語っているのではないでしょうか。
例えば、我々は赤ん坊を育てるとき、物事の意味について教えます。意味と意味との繋がり、すなわち文脈を教えます。赤いリンゴを赤ん坊の目の前に差し出して「これはリンゴだよ。赤い色をしているね」と教えます。これを繰り返すうちに、赤ん坊の眼と心には「赤い」と「リンゴ」が刻みつけられるでしょう。そのようにして、この世のことを何一つ知らなかった(=見えていなかった)赤ん坊は物や事を「認識」し、認識することによって世界を既視感で埋め尽くしてゆく。その過程を我々は人の「成長」と呼びます。我々はそのことを喜びます。「いつまでも幼子の心を失わないで欲しい」と、言葉で言う親はいるかもしれませんが、本心からそう信じる親はいないでしょう。他人より一歩でも早く既視感を身につけることが、我々の社会では(現代のみならず、はるか昔から)求められているのを誰もが知っています。
「人は常に『既に見たもの』を見ている」とは、認識の謂です。人が何かを認識するとは、原理上どうやっても「新たな認識」ではあり得ず(なぜなら、無垢の赤ん坊が教わる初めての物や事はすべて、過去の誰かの認識の結果なのですから!)、前を見ているつもりでも、本当は鏡に映る過去を見ているだけなのかもしれません。そうした回路を通してしか世界を把握することが許されていないとすれば、我々の意識はいつも「過去に見たことのあるものしか見ることができない」という袋小路に追い詰められていることになります。故に我々は「彼等の表現外に出て見る事はどうしても出来ない気が」するのです。
けれども、ここまで述べておきながら、志賀の書いていることは、それとはまた少し違ったことのようにも思えます。
彼は、芸術作品の持つ予言性についても述べています。
「本統に絵のようだ」という志賀の言葉は、単に墨絵そっくりの風景、風景そっくりの墨絵への賛辞に留まっていません。ましてや、東洋精神の西洋精神への優越を謳っているのでもない。
志賀は、優れた芸術作品が「新たな認識」を生み出し、呼び起こす(万に一つの)可能性について語り、また、そのことを本気で信じているやに思われます。
もちろん、そうやって生まれた「新たな認識」も、あっという間に既視感へと変貌します。生まれた瞬間から変質すると言ってもいい。だからこそ、結局は志賀も「彼等の表現外に出て見る事はどうしても出来ない気がした」と書かざるを得ないのですが。
写真は(と、ようやく写真の話になります)、その誕生の始まりにおいては、人間に「新たな認識」を与えてくれる素晴らしい道具だったのだと想像できます。「機械の眼」は、無垢であると同時に、人の認識を軽々と超越し、断罪する残酷な正直さ、精緻さを併せ持っています。ただし、写真が写真であるというだけでその清新な役割を果たすことができたのはもうずっと昔の出来事で、我々はまたもや「彼等の表現外に出て見る事はどうしても出来ない気がした」と呟きながら嘆息するしかない状況に置かれている、そう言い切っては酷でしょうか。
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by on-dori | 2014-01-21 22:23 | M8 + SUMMARIT 35mm

何を見る?

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カロス・ギャラリー(仙台市)で開催中の「Sha-gaku vol.7」に出展している僕の作品のタイトルは「a picture」です。タイトルどおり1点のみの出展。そして、どこか不遜な名付けですね。
この写真を撮ったのは、昨秋、岩手県立美術館にアントニオ・ロペス・ガルシアの展覧会を見に行った帰り道です。近寄って写真を見ていただくと「先人記念館」と書かれたバス停が写っています。
アントニオ・ロペス・ガルシアは、スペインの高名なリアリズム画家です。
「リアリズム=超細密描写」に留まらない、人間が感じるリアルとは何かを徹底して追求している画家だと思いました(そして同時に、画面の奥から吹き零れるような叙情性と硬質な美しさを有しています)。
高みにある彼の絵を見た後、しばらくして、刺激と興奮の残り香を元に、この作品を作りました。
写真を見て「絵みたいな写真だ」と言う、あるいは、絵を見て「まるで写真のようだ」と呟く、その関係の不思議さを見る人に問いたいと思いました。故にタイトルも、絵であり写真でもある、ダブルミーニングとしています。
もしかしたら、英語圏の人々は「picture」が絵も写真も両方を意味することに、余り違和感を感じていないのかもしれませんね。単語自体がそうであるように。
日本語でも、写真を指して「絵」という言い方をするときがあります。
絵なのか、写真なのか、作品の中にその答えはありません。いや、写真なんです。「『写真みたいな絵』みたいな写真」なんです。
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by on-dori | 2014-01-20 22:35 | M8 + SUMMARIT 35mm

結びを

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昨夜は、カロス・ギャラリー(仙台市)にて、公募企画展「Sha-gaku vol.7」のオープニングパーティーに参加しました。遅くなるまで、賑やかなお酒を楽しみました。
明けて今日。首からカメラを提げ、仙台市内を散策して歩きました。
歩くほどに、自分自身に対する苛立ちが心の中に埋み火のようにあるのを、強く感じました。
苛立ちの量は多くはありませんが、鋭く尖っています。
大きいことも、小さいことも、やるべきことをきちんとやり終えないまま、先に進んでしまっている感覚があります。
それでは決して進んでいることにならない・・・一つ一つ、納得の行く形で、納得してもらえる形で、結びをやり遂げなければ。
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by on-dori | 2014-01-19 20:49 | M8 + SUMMARIT 35mm

スパークリング!

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こんばんは。
ふくしまデスティネーションキャンペーン「非公式」フォトグラファーの江口です^^
福島県内で出会った美味しいもの、面白いことを勝手連的・散発的に紹介しています。

今日ご紹介するのは、二本松市東和(とうわ)地区の「ふくしま農家の夢ワイン株式会社」が醸すシードルです。
東和地区でつくられる新鮮な野菜は、近隣のスーパーマーケットでも特設コーナーが設けられる「ブランド」なんです。
原発事故後は苦しい局面も多かったと想像しますが、縮こまることなく、事故前から取り組み始めていた葡萄の栽培とワイン醸造を実現。葡萄ワインの本格的な販売はもう少し先のようで、まずは地元産のりんごを使ったシードルです。

こうして紹介しておきながら、実は僕もまだ呑んだことないんですよ。
カロス・ギャラリー(仙台市)で明日から開催の写真展「Sha-gaku vol.7」。そのオープニング・パーティーに持ち込んで、皆でワイワイ味見したいと思っています。
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by on-dori | 2014-01-17 20:51 | DP2 Merrill

白は好みですか?

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こんばんは。
ふくしまデスティネーションキャンペーン「非公式」フォトグラファーの江口です^^
今日は福島県産の葡萄から醸される白ワイン「シャトー・メルシャン 新鶴シャルドネ」をご紹介します。

このワインの葡萄の産地「新鶴(にいつる)地区」は、会津盆地の西端に位置しています。かつては新鶴村と言いましたが、平成17年に近隣の町村が合併し、現在では会津美里(あいづみさと)町に属します。
メルシャンのWebサイトはコチラ。
http://www.chateaumercian.com/wine/chardonnay/niitsuru_2012.htm
ちょっと長いですが、一部引用しますね。

「秋雨の量が多いため、それまで健全に育ってきたブドウが一気に病害に襲われるなど、なかなか安定して質の良いブドウが収穫できないのが長年の問題でした。この問題の解決がされないことには新鶴地区でのシャルドネ栽培は断念をしなければいけないという危機を感じていた時期に、栽培農家自ら秋雨の被害を抑えるために独自の雨除け設備を設置したところ、同年に雨除け施設を設置した畑から収穫されたブドウは糖度20度を超え、素晴らしいワインへと結実しました。以来、雨よけ施設はすべての畑へとひろがり、質の高いブドウを産み出し続けています。」

だいぶ前になりますが、仙台市内の百貨店で、たまたま日本産ワインの試飲会に出くわしたことがあります。メルシャンのブースがあって、軽く一杯頂戴しました。係の方から、
「お好きなワインの銘柄はありますか?」
と訊かれ、僕は一度だけ新鶴ワインを飲んだことがあったので、そのことを伝えました。すると、こんな返事が帰って来ました。
「地元産ワインを好きだという方は多いんですけれどネ・・・」
僕の印象では「地元贔屓はわかるけれど、ワインとしての実力はまだまだ山梨や長野のものには敵いませんよ・・・」と暗におっしゃっているように聞こえました。そして、当時はきっとそのとおりだったのでしょう。
しかし、上記のように、栽培農家の方々がものすごく頑張ったんですね。
その後「新鶴シャルドネ」は多くの国際的な賞を受賞したり、一時はANAの国際線ファーストクラスのワインに選ばれたりと、活躍を続けています。

僕はワインの味には詳しくないので、ここから先は参考程度に読んでください。
とてもしっかりした味わいのワインだと思います。柑橘系の酸味に、樽の香りが結構します。開栓直後よりも、数日間置いてからの方がご機嫌なような気がします。
セカンドラインとして「日本の地ワイン」シリーズからも同じ銘柄が出ています。ちょっと甘めで、値段も抑えめなので、こっちの方が取っ付きやすいかもしれません。
http://www.chateaumercian.com/wine/japaneselocal/niitsuru_chardonnay.html
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by on-dori | 2014-01-16 20:07 | DP2 Merrill

至福の生キャラメル

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こんばんは。
ふくしまデスティネーションキャンペーン「非公式」フォトグラファーの江口です^^
今日は福島県が誇るスイーツ「向山製作所の生キャラメル」をご紹介します。

向山製作所は、高村光太郎「智恵子抄」で世に知られる安達太良山の麓、福島県大玉村に本社があります。
スイーツの会社なのに「製作所」という堅苦しい名前がついているのにはわけがありまして・・・元はと言えば、そして現在も、本業は電子機器を製作する会社なのです。
バブル崩壊、リーマンショックと打ち続いた不況の波を乗り越えるべく、平成20年にフード事業部を立ち上げ、試行錯誤の末、見事生キャラメルを人気商品へ(といった経緯が、Webサイトに書いてありました)。
http://www.mukaiyama-ss.co.jp/caramel/index.html
上のリンク先で「会社案内」のページを開くと、いきなり風景が変わって驚きますヨ。

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郡山市内にこの会社のカフェがあると聞いて、先日、初めて行って来ました。
「向山製作所郡山表参道カフェ」といいます。駅前から商店街を少し歩いたビルの一階です。
店内からは石造りの鳥居がチラリと見えます。郡山の総鎮守とされる安積国造(あさかくにつこ)神社の参道沿いにあるので「表参道カフェ」。

豊富なメニューの中から「パンケーキと野菜スープ」のセットをいただきました。
フワッと食べやすいパンケーキも、根菜ゴロゴロのスープも、どちらも美味しかったですが、やはり「お通し」に出て来た一口サイズの生キャラメル(←容器ごと冷やされて登場!)と、パンケーキに垂らしたシロップ状の生キャラメルが、他では味わえない美味しさでしたネ。

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東京丸の内「KITTE」地下一階にも直営店がオープンしたとのことですので、首都圏の方も是非お試しください。
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by on-dori | 2014-01-15 21:42 | M8 + SUMMARIT 35mm

十八番

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「音のない言葉 #18」


福島市荒井の「珈琲楓舎」では明日から「珈琲のうつわ」展が開催されます。
「風花画廊/一木窯」主宰の後藤五木さん始め、多くの作家さんのバラエティに富んだ器を手に取ってご覧になることができますし、もちろん購入することもできます。
その会場の一角に、来月開催の写真展「音のない言葉」のシリーズから一点を先行展示いたします。本番とはちょっと違って、太子判の木製額に収めた、こぢんまりとしたスタイルです。
「これ、何を撮ったんですか?」
と訊かれることの多い「音のない言葉」の写真たちですが、この十八番、
「くまもんのほっぺた、撮りました」
と答えることにしましょうか(笑)
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by on-dori | 2014-01-14 20:09 | GXR with GR50mm

萎れかけのチューリップ

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by on-dori | 2014-01-13 11:18 | DP2 Merrill

冷える!

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by on-dori | 2014-01-11 15:18 | M8 + SUMMARIT 35mm

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新しいことに取り組むのも面白いけれど、今年は掘り下げるのも大事、な気がするな。
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by on-dori | 2014-01-10 22:20 | M8 + SUMMARIT 35mm